メニュー

一枚の刺繍

[2019.07.31]

食卓で趣味の刺繍を縫いながら、テレビで相撲を鑑賞する。今は亡き祖母を想う時まぶたに浮かぶ光景です。私は小さい頃泣き虫で、家でもよく癇癪を起こしましたが、その都度祖母には「男ならグッと我慢しなさい」と窘められました。

小さい頃からの癇癪持ちは、大人になってもそう簡単には治すことができず、仕事場においてもスタッフや同僚の医師に声を荒げることもあり、患者様から「優しい先生で、‥」と言われる毎に、心苦しさを感じてきました。

今回クリニックを開業するにあたり、父から刺繍された一枚の絵をもらいました。祖母が手掛けたその刺繍は、しばらくの間倉庫に仕舞われて染みだらけでしたが、プロの方に染み抜きをしていただき、縫い上げたばかりのような色合に仕上りました。大きな樹木を描いた絵の中央には卵から孵ったばかりの雛鳥たちが、巣の中で餌を待って大きな口を開けており、その甲高い鳴き声まで聞こえてきそうです。周囲の枝には様々な種類の鳥たちが自分達の雛鳥かのように、優しくその様子を見守る慈愛に満ちた作品です。穏やかに診療しなさい、と癇癪持ちの私を諭してくれているのでしょう。

現在その作品は、クリニック奥の待合室に飾ってありますので、御加減が許す方は、待ち時間に是非ご覧ください。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME