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心筋細胞はなぜ動き続けても疲れないのか

[2025.01.10]

 効率よくたくさんのエネルギーを産生するために心筋細胞に備わっているもう一つの性質は細胞分裂をほとんどしないことです。身体のなかで増殖や分化をしない細胞は極めて珍しいといえます。

 細胞分裂をしないことがなぜ効率よくエネルギーを産み出すことに関わるのかというと、細胞は分裂するときに多くのエネルギーが必要となり、さらに新しい細胞をつくるためにアミノ酸や脂肪などの栄養素も必要になります。そのため細胞がほとんど分裂しないということは、そこにエネルギーや栄養素を費やす必要がありません。そうすることで心筋細胞は細胞内に入ったグルコースやアミノ酸をほぼエネルギー合成のためだけに使うことができ、より効率のいいエネルギー産生が可能になっているのです。

 またエネルギーを産生する過程で生じる乳酸の処理の仕方も、心筋細胞と骨格筋細胞では異なります。心臓は再び細胞に取り込んでエネルギーとして再利用する仕組みになっていることも最近分かってきています。

 乳酸の蓄積は、骨格筋では疲労の要因の一つになります。蓄積した乳酸は通常は細胞外に排出されてエネルギーとして使われることはほとんどありません。その乳酸の蓄積が心臓の筋肉では起こらないのです。これが他の筋肉は動き続けると疲れてしまうのに、心臓の筋肉はずっと動き続けられる理由の一つと考えられています。ところが心筋細胞では、その乳酸を再び細胞内に取り込んでエネルギー源として再利用する仕組みになっていることも最近分かってきています。そのように心筋細胞では乳酸の蓄積が起きにくくなることで、疲労することがないのかもしれません。

 あらゆる手段を使ってエネルギーを絶え間なく産生し、片時も休むことなく動き続ける無駄のないシステムにはただただ感心するばかりです。

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